ケルト音楽の歴史と特徴、魅力を深掘り。

曲・ジャンル解説
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  1. はじめに
  2. ケルト音楽とは?
      1. 「ケルト」の起源:古代ケルト民族と文化圏
      2. ケルト音楽が息づく地域と多様性
  3. ケルト音楽の歴史
      1. 古代ケルトの音楽:吟遊詩人とハープの原型
      2. 中世~近世:口承伝統とハープ音楽
      3. 18世紀~19世紀:音楽収集とダンス音楽の体系化
      4. 20世紀初頭~中期:移民、文化復興
      5. 20世紀後半~現在:ケルト音楽リバイバルと現代への展開
  4. ケルト音楽の特徴
  5. 旋律 (メロディ) – 独特の音階と装飾
      1. 旋法(モード)の使用
      2. 装飾音(オーナメンテーション)
      3. 反復と変奏
  6. リズム – ダンスとの深い結びつき
      1. リール (Reel)
      2. ジグ (Jig)
      3. ホーンパイプ (Hornpipe)
      4. ポルカ (Polka)
  7. 楽器編成
    1. 伝統的な主要楽器
      1. フィドル (Fiddle)
      2. ティン・ホイッスル (Tin Whistle)
      3. イーリアン・パイプス (Uilleann Pipes)
      4. バウロン (Bodhrán)
      5. ケルティック・ハープ (Celtic Harp)
      6. コンサーティーナ (Concertina) / アコーディオン (Accordion)
    2. 近代以降に取り入れられた楽器
      1. ギター (Guitar)
      2. ブズーキ (Bouzouki)
  8. 歌唱法
      1. ショーン・ノース (Sean-nós)
      2. バラード (Ballad)
      3. 労働歌 (Working Songs)
      4. 哀歌 (Lament)
  9. 演奏スタイルと感情の幅
      1. 即興性とセッション文化
      2. 口承伝統
      3. 感情の多様性
  10. 地域ごとのケルト音楽の魅力(代表例)
      1. アイルランド音楽
      2. スコットランド音楽
      3. ブルターニュ音楽(フランス)
      4. ガリシア音楽(スペイン)
  11. まとめ

はじめに

どこか懐かしく、それでいて生命力に満ち溢れ、聴く者の魂を揺さぶる「ケルト音楽」

アイルランドやスコットランドパブで陽気に演奏されるフィドルの音色、映画やゲームで耳にする幻想的で美しいメロディ、あるいは勇壮なバグパイプの響きなど、私たちは知らず知らずのうちにケルト音楽に触れています。

しかし、「ケルト音楽とは具体的にどんな音楽なの?」「どんな歴史があって、どんな特徴があるの?」と問われると、詳しく説明できる人は少ないかもしれません。

この記事では、そんな奥深く魅力的なケルト音楽の世界へご案内します。

その起源から現代への流れ、心惹かれる音楽的特徴、そして私たちの日常での楽しみ方まで、ケルト音楽のすべてを紐解いていきましょう。

ケルト音楽とは?

「ケルト音楽」という言葉は非常に広義で、特定の国や地域に限定されるものではありません。

まずはその基本的な定義と、ケルト音楽が息づく文化圏について理解を深めましょう。

「ケルト」の起源:古代ケルト民族と文化圏

「ケルト人」とは、紀元前にヨーロッパ中央部から広がり、鉄器文化を持っていたインド・ヨーロッパ語族ケルト語派の言語を話す人々の総称です。

彼らは特定の統一国家を形成したわけではなく、言語や文化、宗教観などを共有する部族集団でした。

ローマ帝国の台頭などにより、その勢力範囲は次第にヨーロッパの西端や島嶼部へと追いやられていきました。

現代において「ケルト文化圏」とされるのは、歴史的にケルト人の影響が色濃く残り、ケルト系の言語や文化が受け継がれてきた地域です。具体的には以下の地域が挙げられます。

ケルト文化圏
  • アイルランド
  • スコットランド
  • ウェールズ
  • ブルターニュ(フランス北西部)
  • コーンウォール(イギリス南西部)
  • マン島(イギリス王室属領)

これらに加え、歴史的なケルト人の居住地であったスペイン北西部のガリシア地方やアストゥリアス地方の音楽も、ケルト音楽の要素を持つものとして扱われることがあります。

ケルト音楽が息づく地域と多様性

上記のケルト文化圏で育まれた伝統音楽や、それらの影響を受けた現代の音楽を総称して「ケルト音楽」と呼びます。

最も広く知られているのはアイルランドとスコットランドの音楽ですが、ブルターニュやガリシアなども独自の豊かな音楽文化を持っています。

地域ごとに使用される楽器やリズム、歌唱法には違いがあり、それぞれが独自の発展を遂げてきました。

しかし、その根底にはケルト民族が持っていたとされる自然観や精神性、旋律の様式などに共通する要素も見られ、これらが「ケルト音楽」という大きな枠組みを形成しているのです。

ケルト音楽の歴史

ケルト音楽の歴史は古く、その起源は古代ケルト民族の時代にまで遡ると言われています。

しかし、文字による記録が少なかったため、特に初期の歴史は不明な点も多く、口承や考古学的な発見から推測される部分もあります。

古代ケルトの音楽:吟遊詩人とハープの原型

古代ケルト社会において、音楽は非常に重要な役割を担っていたと考えられています。

「バード」や「ドルイド」と呼ばれる知識階級の人々が、詩や物語を歌や楽器の伴奏とともに語り継いでいたとされています。

彼らは神々を称え、英雄の物語を語り、社会の記憶を伝承する存在でした。

楽器としては、竪琴の一種である「ハープ」の原型や、笛、太鼓などが使われていたと推測されています。

特にハープは、後のケルト音楽においても象徴的な楽器として発展していきます。

中世~近世:口承伝統とハープ音楽

中世に入ると、キリスト教がケルト文化圏にも広まりますが、土着の文化や音楽と融合しながら独自の発展を見せました。

音楽は依然として口承で伝えられることが主で、楽譜に記されることは稀でした。

アイルランドやスコットランドでは、ハープ奏者が高い地位を得て、貴族の館などで演奏を行っていました。

しかし、イングランドによる支配が強まると、ケルト文化の象徴であったハープ奏者は弾圧の対象となり、その伝統は一時衰退の危機に瀕します。

それでも、音楽は民衆の間で歌やダンスの形で生き続けました。

18世紀~19世紀:音楽収集とダンス音楽の体系化

18世紀後半から19世紀にかけて、ロマン主義の高まりとともに自国の伝統文化への関心が高まり、アイルランドやスコットランドで音楽収集活動が活発になります。

エドワード・バンティングやフランシス・オニールといった収集家たちが、各地に残る古い旋律や歌を採譜し、出版しました。

これにより、多くの失われかけていた楽曲が保存され、後の世代に伝えられることになりました。

また、この時代には「ジグ」や「リール」といったダンス音楽の形式が体系化され、フィドル(ヴァイオリン)が主要なメロディ楽器として定着しました。

これらのダンスチューンは、地域社会の集まり(ケーリーなど)で演奏され、人々の生活に深く根付いていきました。

20世紀初頭~中期:移民、文化復興

19世紀のジャガイモ飢饉などを背景に、多くのアイルランド人やスコットランド人が新大陸(特にアメリカ)へと移住しました。

彼らは故郷の音楽を持ち込み、アメリカの音楽シーン(ブルーグラスやカントリーミュージックなど)にも影響を与えました。

20世紀に入ると、アイルランドでは独立運動とともにゲール文化復興の気運が高まり、伝統音楽の価値が再認識されます。

ラジオの普及も、音楽が広まる上で大きな役割を果たしました。

20世紀後半~現在:ケルト音楽リバイバルと現代への展開

1960年代以降、世界的なフォークソング・リバイバルの波に乗り、ケルト音楽も大きな注目を集めます。

アイルランドでは、ザ・チーフタンズ (The Chieftains)ザ・ダブリナーズ (The Dubliners)プランクシティ (Planxty) といったグループが登場し、伝統音楽に新しい息吹を吹き込みました。

彼らは伝統的な奏法を尊重しつつも、新たなアレンジや楽器編成を取り入れ、ケルト音楽をより洗練された芸術の域へと高めました。

1980年代以降は、エンヤ (Enya)シンセサイザーを駆使した幻想的なサウンドで世界的な成功を収め、ケルト音楽のイメージを大きく広げました。

また、ポーグス (The Pogues) のようなバンドは、パンクロックとアイルランド音楽を融合させ、「ケルティック・パンク」というジャンルを確立しました。

現代においては、ケルティック・ウーマン (Celtic Woman) のような美しいコーラスグループや、ルナサ (Lúnasa)アルタン (Altan) といった実力派バンドが国際的に活躍しています。

さらに、ロック、ポップス、ニューエイジ・ミュージック、電子音楽など、様々なジャンルと融合しながら、ケルト音楽はその表現の幅を広げ続けています。

映画音楽やゲーム音楽でも頻繁に使用され、その神秘的で心に響くメロディは世界中の人々を魅了しています。

ケルト音楽の特徴

ケルト音楽が持つ独特の魅力は、その音楽的な特徴に由来します。

ここでは、旋律、リズム、楽器、歌唱法など、ケルト音楽を構成する主要な要素を見ていきましょう。

旋律 (メロディ) – 独特の音階と装飾

旋法(モード)の使用

ケルト音楽のメロディは、教会旋法(グレゴリオ聖歌などで使われた旋法)や、それに類する独特の音階(モード)に基づいて作られることが多くあります。

一般的な長調(メジャースケール)や短調(マイナースケール)とは異なる響きが、ケルト音楽特有の雰囲気(哀愁、神秘性、素朴さなど)を生み出します。

よく使われるのは、ドリアン旋法やミクソリディアン旋法などです。

装飾音(オーナメンテーション)

ケルト音楽、特にアイルランド音楽の器楽曲では、メロディに細やかな装飾音が加えられます。

フィドルやティン・ホイッスルなどの奏者は、ロール、カット、クランといった技法を駆使して、旋律を華やかに彩ります。

これらは楽譜に細かく記されるというよりは、奏者の即興性や地域的なスタイルによって変化します。

反復と変奏

多くの伝統的なケルト音楽の楽曲は、AABBといったシンプルな構造を持ち、同じメロディが繰り返されます。

しかし、その繰り返しの中で微妙な変奏や装飾が加えられることで、単調にならず、聴く者を飽きさせません。

リズム – ダンスとの深い結びつき

ケルト音楽は、ダンスと非常に密接な関係にあります。

そのため、明確で躍動的なリズムを持つ楽曲が多く存在します。

リール (Reel)

4/4拍子の速いテンポのダンス曲。ケルト音楽の中で最もポピュラーなリズムの一つ。

ジグ (Jig)

6/8拍子の跳ねるようなリズムが特徴。

スリップ・ジグ (9/8拍子) やシングル・ジグといったバリエーションもあります。

ホーンパイプ (Hornpipe)

4/4拍子で、リールよりやや遅く、付点リズムが特徴的なものが多い。

ポルカ (Polka)

2/4拍子の軽快なダンス曲。

この他にも、スライド、ストラススペイ(スコットランド特有)、マズルカなど多様なリズムがあります。

これらのリズムは、聴いているだけで体が自然と動き出すようなエネルギーに満ちています。

楽器編成

ケルト音楽を彩る楽器は多種多様です。

伝統的なものから、近代以降に取り入れられたものまで、その組み合わせによって様々な表情を見せます。

伝統的な主要楽器

フィドル (Fiddle)

基本的にはヴァイオリンと同じ楽器ですが、ケルト音楽では「フィドル」と呼ばれ、独特の奏法(弓使いや装飾音)で演奏されます。

メロディ演奏の中心となる花形楽器です。

ティン・ホイッスル (Tin Whistle)

ブリキや真鍮などで作られた縦笛。

素朴で澄んだ音色が特徴で、初心者でも比較的簡単に音が出せるため、広く親しまれています。

イーリアン・パイプス (Uilleann Pipes)

アイルランドのバグパイプ

スコットランドのハイランド・バグパイプが口で息を吹き込むのに対し、イーリアン・パイプスは肘(Uilleannはゲール語で「肘」の意)で操作する鞴(ふいご)で空気を送り込みます。

複雑な構造で、メロディ管の他にドローン管やレギュレーター管(和音を出す)を備え、多彩な表現が可能です。

バウロン (Bodhrán)

アイルランドのフレームドラム(片面太鼓)。

鹿やヤギの皮を張り、片手でビーター(撥)を持って叩き、もう一方の手で皮の裏側を抑揚して音程や音色を変化させます。

リズムの土台を支える重要な楽器です。

ケルティック・ハープ (Celtic Harp)

古代から伝わる小型のハープ。

金属弦のものが多く、透明感のある美しい音色が特徴です。

アイルランドやスコットランドの国章にもなっています。

コンサーティーナ (Concertina) / アコーディオン (Accordion)

蛇腹楽器。

メロディと伴奏の両方をこなせるため、ダンス音楽などで重宝されます。

近代以降に取り入れられた楽器

ギター (Guitar)

主にリズム伴奏やコード弾きで使われますが、DADGADチューニング(ダドガドチューニング)など独特の調弦を用いることもあります。

ブズーキ (Bouzouki)

元々はギリシャの楽器ですが、アイルランド音楽に取り入れられ、独特のきらびやかな音色でリズム伴奏やメロディ演奏に使われます。

マンドリン (Mandolin)、バンジョー (Banjo) なども、特にアメリカ経由で影響を受けたケルト音楽で見られます。

歌唱法

ケルト文化圏では、歌も非常に重要な位置を占めてきました。

ショーン・ノース (Sean-nós)

アイルランドの伝統的な無伴奏独唱スタイル。

「古い様式」を意味し、ゲール語で歌われることが多いです。

複雑なメリスマ(旋律装飾)や自由なリズムが特徴で、深い感情表現が求められます。

バラード (Ballad)

物語性のある歌。

歴史的な出来事、英雄譚、恋愛、悲劇などがテーマとなります。

労働歌 (Working Songs)

仕事のリズムに合わせて歌われる歌。

哀歌 (Lament)

死者を悼む歌や、故郷を離れた悲しみを歌うもの。

ゲール語やウェールズ語、ブルトン語といったケルト系言語の持つ独特の語感や響きも、歌の魅力の一つです。

演奏スタイルと感情の幅

即興性とセッション文化

ケルト音楽、特にアイルランド音楽は、パブなどで演奏者が自然に集まって行われる「セッション」という形で楽しまれることが多いです。

楽譜を見ずに、耳で覚えた曲を互いに即興的に演奏し合うスタイルは、ケルト音楽の生命力とも言えます。

口承伝統

多くの楽曲が楽譜ではなく、人から人へと耳で伝えられてきました。

そのため、同じ曲でも演奏者や地域によって微妙な違いがあるのが特徴です。

感情の多様性

ケルト音楽は、底抜けに陽気で賑やかなダンスチューンから、胸を締め付けるように物悲しく美しいスローエア(ゆったりとした器楽曲)やバラード、そしてどこか神秘的で幻想的な雰囲気を持つ曲まで、非常に幅広い感情を表現します。

地域ごとのケルト音楽の魅力(代表例)

ケルト音楽と一口に言っても、地域ごとに特色があります。

ここでは代表的な地域の音楽の魅力に簡単に触れてみましょう。

アイルランド音楽

最も広く知られ、ケルト音楽の代名詞的存在。

リールやジグといったリズミカルなダンス音楽が中心で、フィドル、ティン・ホイッスル、イーリアン・パイプス、バウロンなどが活躍します。

美しいメロディの「エア」と呼ばれるゆったりとした器楽曲や、ショーン・ノースの伝統も豊かです。

スコットランド音楽

勇壮なハイランド・バグパイプの音色が象徴的。

マーチ(行進曲)やストラススペイ(独特のリズムを持つダンス曲)、リールなどが演奏されます。

フィドル音楽も非常に盛んで、アイルランドとは異なる独特のスタイルを持っています。

ゲール語の歌も重要な要素です。

ブルターニュ音楽(フランス)

フランス北西部のブルターニュ地方の音楽。

独自のダンス音楽が発展しており、「フェスト・ノズ」(夜の祭り)と呼ばれるダンスパーティーで演奏されます。

ボンバルド(オーボエに似たリード楽器)やビニウ・コーズ(ブルターニュのバグパイプ)といった独特の楽器が使われます。

歌もブルトン語で歌われ、力強いものが多いです。

ガリシア音楽(スペイン)

スペイン北西部のガリシア地方。

ガイタ(バグパイプ)が中心的な役割を果たし、その音色はアイルランドやスコットランドの音楽との共通性を感じさせます。

ムイニェイラといった独特のダンスリズムがあります。

まとめ

ケルト音楽は、古代ケルト民族の精神性を受け継ぎながら、数千年という長い時間をかけて育まれてきた、非常に豊かで奥深い音楽文化です。

その歴史は、弾圧と復興、伝統と革新を繰り返しながら、現代へと繋がってきました。

独特の旋法や装飾音に彩られた美しいメロディ、躍動感あふれるダンスリズム、フィドルやバグパイプといった個性的な楽器の音色、そして魂に直接語りかけるような歌声。

これらが融合し、聴く者の心を捉えて離さないケルト音楽の魅力となっています。

アイルランドの緑豊かな風景、スコットランドの荒涼とした大地、ブルターニュの神秘的な森――ケルト音楽は、そうした風景や、そこで生きてきた人々の喜怒哀楽を映し出してきました。

現代社会に生きる私たちにとっても、ケルト音楽は心の安らぎや活力を与えてくれる、かけがえのない存在と言えるでしょう。

ぜひこの機会に、ケルト音楽の持つ無限の魅力に触れ、あなただけのお気に入りの一曲、お気に入りのアーティストを見つけてみてください。その神秘的な旋律は、きっとあなたの日常に新たな彩りを与えてくれるはずです。

この記事を書いた人
@RAIN

音高・音大卒業後、新卒で芸能マネージャーになり、25歳からはフリーランスで芸能・音楽の裏方をしています。音楽業界で経験したことなどをこっそり書いています。
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