【2028年問題】日本のAMラジオ放送終了とワイドFM移行を解説。

エンタメ業界
記事内に広告が含まれています。

日本のラジオが迎える大転換期

長きにわたり日本の情報と文化を支えてきたAM(中波)ラジオ放送が、大きな転換点を迎えています。

2028年秋を目処に、国内の民間AMラジオ事業者の多くがAM放送を原則として終了し、FM(超短波)放送による補完放送、通称ワイドFMへと移行する動きが本格化しています。この国家的な放送インフラの変更は、一般に「2028年問題」として認識されており、単なる技術的な変更に留まりません。ラジオを愛聴してきたリスナーの聴取環境、放送局の運営コスト、そして災害時の情報伝達体制にまで根本的な影響を及ぼす、日本のラジオ史上において重要な節目となる一大プロジェクトです。

本記事では、このAMからFMへの移行がなぜ進められているのか、技術的な背景、法的な位置づけ、聴取者が取るべき具体的な対策、そしてこの変革がラジオの未来像にどのような影響をもたらすのかについて、多角的に徹底解説します。

AM放送終了の背景と理由

放送事業者の切実な課題

AMラジオ放送が抱える最も大きな課題の一つは、その維持コストの増大です。AM放送は広いエリアをカバーするために高出力の送信設備と広大な敷地を必要とします。特に、数百メートルに及ぶ送信塔やアンテナ設備は定期的なメンテナンスが必須であり、その維持管理や老朽化した設備を更新にかかる費用は、年間数億円規模に達することもあります。

この高額なコストが、特に広告収入の減少に直面する民間放送局にとって大きな負担となっています。少子高齢化やインターネットメディアの多様化が進む現代において、収益性の低いAM放送設備を維持し続けることは、経営の重荷となっていました。

設備の老朽化と電力消費の増大

AM放送の送信設備は製造から数十年が経過しているものが多く、老朽化が深刻な問題となっています。新しい部品の調達が困難になりつつある上、大規模な送信設備を稼働させるためには莫大な電力が消費されます。これは、地球環境への配慮や社会的な要請として省エネルギー化、すなわちサステナビリティが重視される現代において、見過ごせない問題となっています。

老朽化した設備を更新し続けることは、経済的にも環境的にも非効率であるという判断が、放送事業者間で共有されています。さらに、大規模な送信所は郊外の広大な敷地に存在するため、災害時のメンテナンスや復旧作業の難しさも課題として挙げられていました。

デジタル化と世界的潮流

世界的に見ても、放送メディアはデジタル化へと舵を切っています。例えば、欧州では既にDAB(Digital Audio Broadcasting)などのデジタルラジオへの移行が進められています。日本においても、地上波テレビ放送はデジタル化を完了しました。

ラジオ放送においては、よりノイズに強く高音質なFM、そしてインターネット配信(radikoなど)へのシフトが、実質的なデジタル化の流れを形作っています。この移行は、限られた周波数資源をより効率的に利用し、多角的なメディア展開を可能にするという戦略的な意図も含んでいます。

ワイドFM(FM補完放送)の基礎知識

ワイドFMとは何か

ワイドFM、正式には「FM補完放送」と呼ばれます。これは、既存のFM放送の周波数帯(76~90MHz)の隣接帯域である90.1MHzから94.9MHzの周波数帯域を利用して、AMラジオの番組を放送する仕組みです。この補完放送が導入された主な目的は、都市部の高層ビルによるAM電波の難聴対策と、災害対策の強化です。

これにより、AMラジオの番組をクリアな音質で、より広範囲に届けることが可能となり、AM放送の機能を代替します。

難聴対策としてのメリット

都市部では、高層ビル群がAM電波を遮り、建物の中や陰でラジオが聴き取りにくくなる「難聴」が発生しやすいという問題がありました。AM波は建物に遮られやすい特性を持つ一方で、FM波はAM波に比べて障害物に強く、直線的に進む性質があります。

そのため、ワイドFMはこの難聴問題を解消する上で非常に効果的です。地下やトンネル内、鉄筋コンクリートの建物内でも比較的受信しやすいという利点も持ち合わせており、都会生活者の聴取環境を大きく改善します。

音質の向上と聴取環境の改善

AM放送は、放送方式の特性上、ノイズ(雑音)や混信が入りやすいという欠点がありました。しかし、FM放送はクリアな高音質(Hi-Fiステレオ)で番組を聴くことができます。ワイドFMへの移行は、リスナーにとって音質向上という最も直接的な大きなメリットをもたらします。

これにより、音楽番組やラジオドラマ、そしてパーソナリティの「声」の魅力を最大限に活かしたコンテンツの需要と質が向上することが期待されます。これは、音大卒というあなたの専門的な知見とも深く関わる、表現の幅を広げる要素です。

災害対策としての役割の強化

AM放送は広範囲をカバーする一方で、大規模な送信設備が津波や地震などで損壊すると、復旧に時間を要するという課題がありました。一方、ワイドFMは比較的低コストで多くの送信設備を分散配置できるため、設備の物理的な脆弱性が低く、災害に強いというメリットがあります。

また、停電時にも継続して情報を提供しやすいという特性も持ち、国民の生命と財産を守る上で、ラジオの災害情報伝達網を効果的に強化します。これは、ラジオが関東大震災の教訓から導入された経緯を踏まえると、原点回帰とも言える強化策です。

聴取者が取るべき具体的な対策

従来のAMラジオはどうなるか

2028年秋以降、一部の例外を除き、多くの地域で従来のAMラジオ受信機では民放の番組を聴くことができなくなります。特に、古いタイプのラジオや1990年代以前に製造されたカーステレオを使用している方は、聴取継続が困難になります。この変化に対応するため、放送局は周知活動を強化していますが、リスナー自身も自身の聴取環境を確認し、必要な対策を講じる必要があります。

ワイドFM対応機器の準備

聴取を続けるためには、90.1MHzから94.9MHzの周波数帯を受信できる、ワイドFMに対応したラジオ受信機やカーステレオが必要です。対応機器には「ワイドFM対応」「FM補完放送対応」などの表記が必ずあります。まだ対応機器を持っていない場合は、家電量販店やオンラインショップで、対応機種への買い替えを検討する必要があります。

特に、防災グッズとして準備しているラジオがワイドFMに対応しているかを確認し、未対応であればこの機会に買い替えることが強く推奨されます。

スマートフォンによる聴取と「ながら聴き」の定着

radiko(ラジコ)などのインターネットラジオ配信サービスは、AM/FMの周波数の区別なく番組をクリアに聴くことができる最も手軽な方法の一つです。スマートフォンやPCからアクセスするだけで利用できる手軽さから、場所を選ばない新しいラジオの聴取形態として定着しています。

特に、「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視し、他の作業をしながら音声コンテンツを楽しむ「ながら聴き」を好む若い世代を中心に普及が進んでいます。アプリをダウンロードするだけで簡単に利用できるため、移行期間中の対策としても有効であり、新しいリスナー層の獲得にも貢献しています。

放送事業者の取り組みと今後の課題

実証実験と円滑な移行の検証

一部の民間AMラジオ事業者は、すでに総務省の特例措置を活用し、AM放送を一時休止してFM補完放送のみでの運営を行う実証実験を実施しています。これは、AM放送の休止が聴取者にどの程度の影響を与えるかを検証し、特に高齢者や難聴対策が必要な地域への影響を最小限に抑えつつ、円滑な移行に向けた課題を洗い出すための重要なステップです。

実験の結果は、今後の全国的な移行計画に大きく反映されることになります。

地域情報提供の継続と維持

ラジオは、テレビや新聞とは異なる形で、地域に密着した情報提供メディアとしての役割も非常に大きいです。AM放送からFMへの移行後も、地域住民に必要な生活情報やローカルニュース、行政情報を継続して届ける体制を維持・強化することが、放送局にとっての重要な使命となります。

新しい周波数での聴取をいかに地域住民に定着させるかという「周知」の課題が、移行成功の鍵となります。

ラジオコンテンツの未来と多様性

技術的な変化は、コンテンツ制作にも影響を与えます。高音質化されたワイドFM、そしてネット配信の普及は、よりリッチな音響効果、ASMRなどのコンテンツ、そしてパーソナリティの「声」の魅力を最大限に活かした番組を求める流れを加速させるでしょう。

また、ネット配信は地方の番組を全国に届けることを可能にし、ローカル局が制作するユニークで質の高いコンテンツが、新たなリスナー層を獲得する機会を生み出します。

まとめ

AM放送からワイドFMへの移行は、日本のラジオ放送にとって避けて通れない大きな変革であり、その実施はコスト削減、環境配慮、聴取環境改善、そして災害対策強化という多角的なメリットに基づいています。設備の老朽化と維持コスト増大という課題を解決しつつ、ラジオというメディアが次なる100年も社会的役割を続けていくための布石となります。

リスナーは対応機器への切り替えを進め、放送事業者は移行後の安定的な運用と、より魅力的で多様なコンテンツの提供を目指す必要があります。この「2028年問題」を乗り越えることで、日本のラジオは新たな時代へと進化していくでしょう。

この記事を書いた人
@RAIN

音高・音大卒業後、新卒で芸能マネージャーになり、25歳からはフリーランスで芸能・音楽の裏方をしています。音楽業界で経験したことなどをこっそり書いています。そのほか興味があることを調べてまとめたりしています。
>>read more

\  FOLLOW  /
エンタメ業界ビジネス
スポンサーリンク
\  SHARE  /
\  FOLLOW  /
@RAIN
タイトルとURLをコピーしました