【フルートはいつから存在する?】歴史と楽器の特徴。

楽器解説
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はじめに

フルートは、その透明で軽やかな音色から「楽器の宝石」と称されます。木管楽器でありながら、その音色は金属的な輝きを持ち、澄み切った高音は天上の調べを思わせます。しかし、私たちが知るこの完璧なフルートは、実はたった一つの発明によって、劇的な変貌を遂げた、比較的新しい楽器です。その優雅な音色の裏には、何世紀にもわたる不完全な楽器との格闘と、一人の天才技術者の情熱が秘められています。

この記事では、フルートがどのようにして現在の姿になったのかを、歴史的背景とともに深く掘り下げていきます。単なる年表ではない、人間たちの探求心と創意工夫が詰まった、フルートが歩んだ洗練の物語を辿りましょう。

古代からの歴史

フルートの歴史は、他の楽器と同様に古く、紀元前までさかのぼります。初期の笛は、骨や葦の茎で作られたものが多く、その形は様々でした。しかし、その多くはリコーダーのような「縦笛」であり、横笛が主流となるのは、ずっと後の時代になります。

中世の横笛

ヨーロッパで横笛が広く使われるようになったのは、中世に入ってからです。当時の横笛は、軍楽隊や行進曲で使われることが多く、その音色は力強く、鋭いものでした。しかし、音域が狭く、複雑な音楽を演奏することはできませんでした。

フルート族の多様性

フルート族の楽器は、非常に多様な種類があります。ピッコロやアルトフルート、バスフルートといった楽器は、それぞれが異なる音域と音色を持ち、オーケストラや吹奏楽、そして室内楽で様々な役割を担っています。しかし、そのすべては、一つの楽器の歴史を共有しています。

バロックの横笛

17世紀から18世紀にかけてのバロック時代、横笛は「トラヴェルソ」と呼ばれ、室内楽やオーケストラで重要な役割を担うようになりました。この時代のトラヴェルソは、まだ現代のフルートとは異なり、円錐形の管体と、ごく少数のキーしか持っていませんでした。

楽器の構造と音色

トラヴェルソは、現代のフルートに比べると音量が小さく、音色も柔らかなものでした。また、キーの数が少ないため、すべての調で正確な音程を出すことは困難でした。このため、当時の音楽家たちは、特定の調でしか演奏できない、あるいは不協和音が生じることを前提に作曲していました。

バッハとテレマン

バロック時代の作曲家たちは、このトラヴェルソの音色を愛しました。J.S.バッハは、『ブランデンブルク協奏曲第5番』や『ソナタ』といった作品で、トラヴェルソの透明な響きを巧みに活かしました。また、ゲオルク・フィリップ・テレマンは、フルートの名手としても知られ、トラヴェルソのために数多くの協奏曲やソナタを作曲しました。彼らは、不完全な楽器の特性を理解し、それを芸術へと昇華させました。

古典派の進化

古典派の時代に入ると、音楽はよりダイナミックで、広い音域と正確な音程を求めるようになりました。これに伴い、フルートにも改良が加えられるようになります。

ハイドンとモーツァルト

ハイドンやモーツァルトのオーケストラでは、フルートが重要な役割を担うようになりました。特にモーツァルトは、フルートの軽やかで美しい音色を愛し、『フルート協奏曲』や『フルート四重奏曲』といった傑作を生み出しました。しかし、当時のフルートはまだ不完全で、モーツァルトはフルートという楽器をあまり好まなかったという逸話も残っています。

楽器の改良

この時代、製作者たちはフルートの音程を正確にするために、キーを増やすことに注力しました。これにより、すべての調で均一な音程を出すことができるようになりましたが、キーの増加は運指を複雑にし、演奏家を悩ませました。この時期のフルートは、音色と演奏性の間で、まだ完璧なバランスを見出せずにいました。

ベーム式フルート

19世紀、フルートの歴史は、テオバルト・ベームという一人の天才技術者によって、劇的な変貌を遂げます。ベームは、フルートの音程の不正確さと運指の複雑さを根本から解決するために、楽器の構造を根本的に見直しました。

ベームのフルート

ベームは、音響学の知識を応用し、フルートの音孔を物理的に最も理想的な位置に配置しました。しかし、この配置では、指が届かない音孔が生まれてしまいます。そこで彼は、連動するキーシステムを発明し、一本の指で複数のキーを動かすことを可能にしました。さらに、それまでの木製から金属製の管体へと変更し、音量を増大させました。このベーム式フルートは、それまでのフルートの常識を覆す、まさに革命的な発明でした。

楽器の材質と音色

ベームはフルートの材質に銀や金といった金属を推奨しました。これにより、フルートはより豊かな音量と、輝かしい音色を獲得しました。金属製のフルートは、コンサートホールの隅々まで音が届くようになり、オーケストラや独奏楽器として、その地位を不動のものとしました。このベーム式システムは、フルートだけでなく、クラリネットやオーボエ、サクソフォンといった他の木管楽器にも応用され、現代の木管楽器の発展に不可欠なものとなりました。

現代のフルートへ

ベーム式フルートの発明以降、フルートの構造的な進化は一段落し、演奏技術や音楽の多様化が進みました。現代のフルートは、オーケストラや吹奏楽、そしてジャズやポップスといった多様なジャンルで活躍しています。

演奏技術の進化

ベーム式フルートは、演奏家たちに驚くべき演奏の自由を与えました。奏者たちは、より速く、より正確なパッセージを演奏できるようになり、フルートのレパートリーは飛躍的に拡大しました。現代のフルート奏者たちは、過去の巨匠たちの作品を演奏するだけでなく、現代の多様な音楽にも挑戦しています。

多様な音楽ジャンル

フルートは、クラシック音楽だけでなく、ジャズやポップス、映画音楽など、様々なジャンルで活躍しています。ジャズフルートの巨匠フランク・ウェスは、ジャズにおけるフルートの可能性を広げました。また、フルートの軽やかで美しい音色は、多くの映画やアニメーションのサウンドトラックにも使われています。

まとめ

フルートの歴史は、完璧な音色を求める職人たちの探求心と、時代を超えた音楽家たちの情熱が詰まった物語です。中世の素朴な横笛から、バロックの優雅なトラヴェルソ、そしてベームの革命的な発明を経て、フルートは今日の姿となりました。その透明で軽やかな音色に耳を傾けるとき、私たちはこの楽器が持つ、絶え間ない進化と、無限の可能性を感じ取ることができるのです。

この記事を書いた人
@RAIN

音高・音大卒業後、新卒で芸能マネージャーになり、25歳からはフリーランスで芸能・音楽の裏方をしています。音楽業界で経験したことなどをこっそり書いています。そのほか興味があることを調べてまとめたりしています。
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