【プラトンとアリストテレスの音楽論】古代ギリシャ哲学が明かす「音楽の力」と役割。

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はじめに

古の時代、音楽は単なる娯楽ではありませんでした。古代ギリシャにおいて、音楽は教育、宗教、そして政治の根幹をなす、極めて重要な要素として位置づけられていたのです。この時代の二大巨匠、プラトンとアリストテレスは、それぞれの哲学体系の中で「音楽の力」について深く考察しました。

本記事では、彼らが音楽をどのように捉え、それが魂や国家にどのような影響を与えると論じたのかを掘り下げます。アリストテレス 芸術論や「音楽とは何か 哲学」といった問いに応えながら、二人の哲学者の音楽論が後世の芸術観に与えた影響、さらには「ショーペンハウアー 芸術」など、彼らの思想がどのように継承・発展されていったのかについても簡潔に触れていきましょう。

古代ギリシャにおける音楽の位置づけ

古代ギリシャ社会では、音楽は私たちの現代的な感覚とは異なり、非常に多岐にわたる重要な役割を担っていました。

教育における音楽の重要性

古代ギリシャにおいて、音楽は市民を育成する上で不可欠な教育科目でした。少年たちは、読み書きや体操と並んで、音楽、特に歌唱や楽器の演奏(リュラやアウロスなど)を学びました。これは単なる技術習得ではなく、音楽を通じて魂を陶冶し、感情を訓練し、節度ある人間性を育むことが目的でした。

プラトンやアリストテレスは、特に音楽が魂に与える影響の大きさを強調し、市民がどのような音楽に触れるべきかについて深く論じています。

宗教的・儀式的役割

音楽はまた、宗教的な祭祀や儀式において中心的な役割を果たしました。神々への讃歌、供犠の際の演奏、神秘儀式での歌唱や舞踊など、音楽は人間と神聖なものとを結びつける媒体と考えられていました。特定の旋律やリズムは、神聖な雰囲気を醸成し、参加者の精神を高揚させ、共同体の連帯感を強める効果がありました。

政治と社会秩序への影響

さらに、音楽は政治的・社会的な秩序にも深く関わると考えられていました。特定の音楽(旋法やリズム)は、市民の性格形成に影響を与え、ひいては国家の安定や不安定に繋がると信じられていました。そのため、国家が音楽のあり方を規制すべきだという議論も存在しました。

例えば、勇気を鼓舞する音楽や、平和と調和を促す音楽は推奨され、逆に感情を過剰に刺激したり、堕落を招いたりする音楽は排斥されるべきだと考えられていました。このように、古代ギリシャの音楽は、単なる美的な表現にとどまらず、社会全体の健全性を維持するための重要な装置と見なされていたのです。

プラトンの音楽論

プラトンは、その主著『国家』の中で、音楽が人間の魂と国家に与える絶大な影響について深く論じました。

『国家』における音楽の教育的役割

プラトンは、理想国家における市民の育成において、音楽の教育的役割を極めて重視しました。彼にとって、音楽は単に耳に心地よいものではなく、人間の魂の性質を形成する強力な力を持つものでした。彼は、若者の魂を鍛え、理性と感情のバランスの取れた人物を育てるためには、適切な音楽教育が不可欠だと考えました。

プラトンは、特定の旋法やリズムが魂に異なる影響を与えると主張しました。例えば、勇敢で節度ある魂を育むためには、ドリア旋法やフリュギア旋法のような堅固で安定した旋律が適しているとし、一方、リュディア旋法やイオニア旋法のような軟弱で享楽的な旋律は、魂を腐敗させ、堕落を招くと警鐘を鳴らしました。

彼は、音楽の旋法やリズムが、人々の性格や行動、ひいては国家全体の秩序に直接的に影響すると信じていたのです。そのため、理想国家においては、国家が音楽を厳しく統制し、市民にふさわしい音楽のみを許容すべきだと主張しました。

「模倣」と「真実」の概念から音楽をどう捉えたか

プラトンは、彼のイデア論に基づき、音楽を含むすべての芸術を「模倣」(ミーメーシス)として捉えました。彼にとって、我々が感覚で捉えるこの世の事物や現象は、永遠不変の「イデア」の模倣に過ぎず、芸術はさらにその模倣であるため、「模倣の模倣」であり、真実から二段階離れていると考えました。

しかし、音楽に関しては、他の視覚芸術とは異なる側面を認めていました。プラトンは、音楽のリズムやハーモニーには、宇宙の秩序や魂の動きと直接的に対応する真理が宿っていると考えました。例えば、調和の取れた音楽は、宇宙の秩序や魂の調和を反映し、聴く者の魂にその秩序をもたらすとしました。

そのため、音楽は単なる「模倣の模倣」にとどまらず、魂の奥深くに直接的に働きかけ、善きものや真実へと導く力を持つ、特別な芸術形式だと認識していたのです。プラトンにとって、音楽の真の力は、感覚的な快楽を超えて、魂を鍛え、高めることにあるとされたのです。

アリストテレスの音楽論

アリストテレスは、プラトンと同じく音楽の力を重視しましたが、その捉え方には異なる側面がありました。

『詩学』や『政治学』における音楽論

アリストテレスは、その主著『詩学』や『政治学』の中で、音楽について深く論じました。彼は音楽を、人間の模倣(ミーメーシス)としての側面を持つ芸術と捉え、それが人間に感情的な影響を与えることを認めました。しかし、プラトンのように音楽を厳しく統制すべきだとはせず、音楽が持つ多様な効用を認めました。

アリストテレスは、音楽が持つ最も重要な効用の一つとして、カタルシス(浄化)の効果を挙げました。彼は、悲劇が恐怖や憐憫といった感情を喚起し、最終的に観客の魂からこれらの感情を健全な形で「浄化」するように、音楽もまた、特定の感情を呼び起こし、それを解消する力を持つと考えました。例えば、情熱的な音楽が怒りや興奮を喚起しても、それが音楽として適切に表現され、鑑賞されることで、かえって魂が落ち着きを取り戻すことができるという見方です。

また、アリストテレスは音楽の倫理的・教育的効用も強調しました。彼は、音楽が人間の性格(エートス)に影響を与え、勇気や節度といった徳を育むのに役立つと考えました。プラトンと同様に、特定の旋法やリズムが感情や性格に影響を与えることを認めましたが、彼はプラトンほど厳格に音楽の種類を制限すべきだとは考えませんでした。むしろ、教育においては多様な音楽に触れる機会を与えることで、生徒の感受性を豊かにし、様々な感情を理解する能力を養うべきだと主張しました。

プラトンとの共通点と相違点

プラトンとアリストテレスは、師弟関係にありながらも、哲学の様々な側面で異なる見解を持っていました。音楽論においても、いくつかの共通点と相違点が見られます。

音楽の効用を認める共通点

二人は共に、音楽が人間の魂や性格に深く影響を与え、教育的に極めて重要であるという点で一致していました。また、音楽が特定の感情を喚起する力を持つことも認めていました。この共通認識は、古代ギリシャ社会全体が音楽を単なる娯楽と見なさず、より高次の役割を与えていたことの証左と言えるでしょう。

自由度に対する見解の違い

しかし、その「音楽の力」に対するアプローチには大きな違いがありました。プラトンが、理想国家の安定と市民の魂の健全性を確保するために、音楽の種類を厳しく統制すべきだと主張したのに対し、アリストテレスはより多様な音楽の効用を認め、極端な規制には反対しました。

アリストテレスは、音楽が単なる模倣であるだけでなく、感情の浄化(カタルシス)という治療的な効果を持つこと、そして教育においては、単一の種類の音楽に限定せず、様々な音楽に触れることで、感性を豊かにすべきだと考えたのです。プラトンが理想主義的で統制を重んじたのに対し、アリストテレスはより経験主義的で、現実的な多様性を認める傾向がありました。

後世の芸術論への影響

プラトンとアリストテレスの音楽論は、古代ギリシャの枠を超えて、後世の音楽観や芸術論に計り知れない影響を与え続けました。

音楽観や芸術論への影響

彼らの思想は、中世のキリスト教音楽論、ルネサンス期の人文主義、そしてバロック期以降の音楽理論にまで及んでいます。例えば、中世の教会音楽では、プラトンの思想に通じるような、魂を高め、神へと導く音楽の役割が強調されました。また、アリストテレスの「カタルシス」の概念は、悲劇や劇音楽の理論において重要な役割を果たし、オペラなどの発展にも影響を与えました。

近代以降の「音楽の哲学」においても、彼らの残した問いは繰り返し議論の対象となります。音楽が魂に与える影響、感情の表現と浄化、そして音楽と社会の関係性といったテーマは、時代が変わっても普遍的な問いとして存在し続けています。

後世の哲学者たちによる継承と発展

プラトンとアリストテレスの音楽論は、後世の多くの哲学者たちによって継承され、発展させられてきました。

アーサー・ショーペンハウアー

例えば、「ショーペンハウアー 芸術」というキーワードが示すように、19世紀の哲学者アーサー・ショーペンハウアーは、プラトンのイデア論と類似した形で、音楽を他の芸術とは異なる特別なものとして位置づけました。彼は、音楽が世界の現象(表象)を模倣するのではなく、世界の根源的な本質である「意志」を直接的に表現すると論じました。

これは、プラトンが音楽に宇宙の真理が宿ると考えた点と通じる部分があります。ショーペンハウアーは、音楽が言葉や概念を超えて、生の苦悩や喜びといった普遍的な感情を最も純粋な形で表現する芸術だと主張しました。

フリードリヒ・ニーチェ

ショーペンハウアーの思想に影響を受けたフリードリヒ・ニーチェもまた、音楽に深い哲学的な意味を見出しました。彼は、音楽をディオニュソス的な衝動の究極の表現と捉え、理性や秩序(アポロン的)だけでは捉えきれない、生命の根源的な力や生の肯定を音楽が体現すると考えました。これは、アリストテレスが音楽に人間を形成する力を見出し、感情の深い部分に作用すると考えたことと、ある種の共通点を見出すことができます。

このように、プラトンとアリストテレスが古代ギリシャで提示した「音楽の力」に関する問いは、時代を超えて哲学者たちの思考を刺激し、音楽という芸術の本質を深く探求する源となってきたのです。

まとめ

プラトンとアリストテレスの音楽論」は、古代ギリシャにおいて音楽が単なる娯楽ではなく、教育、宗教、政治といったあらゆる側面に深く根ざした「音楽の力」を持っていたことを雄弁に物語っています。

プラトンは、理想国家における市民の魂を陶冶するため、音楽を厳しく統制すべきだと主張し、特定の旋法が魂に与える影響を深く考察しました。彼にとって音楽は、宇宙の秩序や真理に直接的に通じる、特別な芸術でした。一方で、アリストテレスは、音楽の模倣としての側面を認めつつも、カタルシス(浄化)の効果や、より多様な音楽が持つ倫理的・教育的効用を強調しました。二人の思想は、音楽の効用を認める共通点を持ちながらも、その自由度に対する見解において明確な相違点がありました。

彼らの音楽論は、西洋音楽史や芸術論に計り知れない影響を与え、中世から近代、そして「ショーペンハウアー 芸術」やニーチェといった現代の「音楽の哲学」に至るまで、その思想は形を変えながらも継承・発展されてきました。

音楽とは何か 哲学」という根源的な問いは、古代の哲学者たちから現代の私たちまで、普遍的な探求の対象であり続けています。プラトンとアリストテレスの言葉に耳を傾けることで、私たちは音楽が持つ奥深い力、それが私たちの魂や社会に与える影響について、新たな洞察を得ることができるでしょう。さあ、古代ギリシャの響きに思いを馳せ、音楽の真の力を探求してみませんか?

参考文献

  • Plato. (約380 BC). Republic. (プラトンの音楽論に関する主要な著作)
  • Aristotle. (約335-322 BC). Politics. (アリストテレスの音楽論に関する主要な著作)
  • Aristotle. (約335 BC). Poetics. (アリストテレスの芸術論、カタルシスに関する記述)
  • Adorno, T. W. (1962). Quasi una fantasia: Essays on Modern Music. Verso. (アドルノによる音楽哲学、古代ギリシャ哲学の現代的視点)
  • Schopenhauer, A. (1818). The World as Will and Representation. (ショーペンハウアーの音楽哲学に関する主要著作)
  • Nietzsche, F. (1872). The Birth of Tragedy out of the Spirit of Music. (ニーチェの音楽哲学に関する主要著作)
  • Dover, K. J. (1974). Greek Popular Morality in the Time of Plato and Aristotle. Blackwell. (古代ギリシャ社会における倫理観と音楽の関係に関する考察)
  • Pappas, N. (2012). Plato and the Republic. Routledge. (プラトンの『国家』における音楽の位置づけに関する解説)
  • Barker, A. (1984-1989). Greek Musical Writings (Vols. 1-2). Cambridge University Press. (古代ギリシャの音楽に関する原典資料集)
この記事を書いた人
@RAIN

音高・音大卒業後、新卒で芸能マネージャーになり、25歳からはフリーランスで芸能・音楽の裏方をしています。音楽業界で経験したことなどをこっそり書いています。そのほか興味があることを調べてまとめたりしています。
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