【ブラジル音楽のすべて】サンバ、ボサノバ、MPBなどを解説。

曲・ジャンル解説
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はじめに

南米大陸最大の国、ブラジル。その広大な国土と多様な民族が育んだ音楽は、世界中の人々を魅了してやみません。情熱的なサンバのリズムから、都会的で洗練されたボサノバの響きまで、ブラジル 音楽は非常に豊かで多様な顔を持っています。しかし、「サンバ ボサノバ 違いって何?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

本記事では、ブラジル音楽ジャンルの奥深さに迫り、その起源から発展、そして各ジャンルの特徴を詳しく解説します。アフリカ系、ポルトガル系、そして先住民音楽が融合して生まれたブラジル音楽の魅力のすべてを紐解きながら、あなたを情熱のリズムと知的な響きの世界へと誘います。

ブラジル音楽の概要と多様性

ブラジル音楽の根底には、多様な民族と文化が織りなす歴史があります。アフリカ、ヨーロッパ、そして先住民、それぞれの音楽的要素が融合し、独自のサウンドを形成してきました。

植民地化と文化の融合

ブラジル音楽の基盤を形成したのは、主に三つの文化です。16世紀から19世紀にかけて連れてこられたアフリカ人奴隷たちが持ち込んだリズムと歌唱法は、ブラジル音楽に決定的な影響を与えました。特に、打楽器を用いた複雑なリズム、コール&レスポンス(呼びかけと応答)の歌唱スタイル、そして宗教儀式と結びついた音楽は、サンバをはじめとする多くのジャンルの源流となりました。

植民地宗主国であるポルトガルからは、メロディやハーモニー、楽器(ギターなど)がもたらされました。ファドのような叙情的で哀愁を帯びた歌唱スタイルや、ヨーロッパの舞曲のリズムもブラジル音楽に影響を与えています。

ブラジルに古くから暮らす先住民たちの音楽も、ごく一部ではありますが、管楽器や打楽器の使用、そして自然や儀式と結びついた精神性を通して、ブラジル音楽に影響を与えています。

これらの要素が、何世紀にもわたって混じり合い、時に衝突しながらも、他に類を見ない豊かなブラジル リズムとメロディ、そして多様なジャンルを生み出してきたのです。

サンバ:カーニバルの魂とブラジルの象徴

サンバは、ブラジルの国民的音楽であり、特にカーニバルとは切っても切れない関係にあります。そのルーツは、アフリカ系ブラジル人のコミュニティに深く根ざしています。

サンバの起源と特徴

サンバは、19世紀末から20世紀初頭にかけて、リオデジャネイロのアフリカ系ブラジル人の居住区(ファヴェーラなど)で誕生しました。アフリカ由来の打楽器のリズムと、ポルトガルの歌唱スタイルが融合したもので、当初は地域コミュニティの祭りや儀式で演奏されていました。

サンバの最大の特徴は、その多様なリズムと、それに合わせて踊られる情熱的なダンスです。特に2拍子を基調としたポリリズム(複数の異なるリズムが同時に演奏される)は、聴く者を自然と踊りへと誘います。歌詞は、日常生活の喜怒哀楽、社会への風刺、あるいは愛や失恋など、多岐にわたります。

サンバの種類とカーニバルとの関連

サンバには、演奏スタイルや用途によって様々な種類があります。

サンバ・エンヘード

これは、リオのカーニバルで、各サンバチーム(エスコーラ・ヂ・サンバ)がパレードで演奏する大規模なサンバです。物語性のある歌詞を持ち、壮大なアンサンブルと華やかな衣装、そして数百人規模のダンサーを伴います。カーニバルのテーマを表現する、その年の「歌」となります。

パゴージ

これは、小規模なグループで演奏される、よりカジュアルでアコースティックなサンバです。友人の集まりやバーなどで演奏され、親しみやすい雰囲気があります。カヴァキーニョ(小型のギター)、パンデイロ(タンバリンのような打楽器)、レコレコ(ギロのような擦弦楽器)などが使われます。

サンバ・ヂ・ホーダ

これは、ブラジルのバイーア州が起源とされる、より伝統的なサンバの形式です。「輪のサンバ」を意味し、歌い手と踊り手が輪になって即興で歌い踊ります。ユネスコの無形文化遺産にも登録されており、サンバのルーツを知る上で重要なジャンルです。

サンバ・カンソン

これは、よりメロディアスで、感傷的な歌詞が特徴のサンバです。ゆったりとしたテンポで、大衆歌謡曲として人気を博しました。ボサノバの出現に影響を与えたとも言われています。

サンバは、ブラジルのカーニバルと密接に結びついています。カーニバルは、サンバが最も輝きを放つ舞台であり、サンバチームが何ヶ月もかけて準備した歌とダンス、そして衣装を披露します。サンバは、ブラジルの国民的アイデンティティの一部であり、その情熱と生命力を象徴する音楽と言えるでしょう。

ボサノバ:知的な響きとクールな世界

サンバの熱狂とは対照的に、ボサノバはより洗練された、都会的な魅力を持つブラジル音楽です。

ボサノバの起源と特徴

ボサノバは、1950年代後半にリオデジャネイロの若きミュージシャンたちによって生み出されました。特に、ギタリストのジョアン・ジルベルト、作曲家のアントニオ・カルロス・ジョビン、詩人のヴィニシウス・ヂ・モライスがその立役者です。

ボサノバは、「新しい傾向」を意味する言葉で、サンバのリズムをより抑制し、ジャズのハーモニーやコード進行を取り入れたことが特徴です。ジョアン・ジルベルトの「ジョビン・リズム」と呼ばれる独特のギターのバッティング奏法と、囁くようなソフトな歌声は、ボサノバのクールでリラックスした雰囲気を決定づけました。歌詞は、日常の風景、愛、友情、そして自然の美しさを、内省的で詩的な言葉で表現することが多いです。

代表的なアーティストと作品

ボサノバの発展に貢献した主要なアーティストとその代表作は以下の通りです。

ジョアン・ジルベルト

ボサノバの創始者の一人であり、「ボサノバの神様」と称されます。彼のギターと歌唱スタイルは、後続のアーティストに絶大な影響を与えました。代表作には、「イパネマの娘(Garota de Ipanema)」(作曲:ジョビン、作詞:モライス、ジョアン・ジルベルトの歌唱によるバージョンが有名)や、アルバム『ヂスヂ・キ・オ・サンバ・エ・サンバ(Desde Que o Samba É Samba)』があります。

アントニオ・カルロス・ジョビン

ボサノバの最も重要な作曲家の一人であり、多くの名曲を生み出しました。ジャズとの融合にも積極的に取り組み、ボサノバを世界に広めました。代表作には、「イパネマの娘」、「コルコバード(Corcovado)」、「フェリシダージ(A Felicidade)」などがあります。

ヴィニシウス・ヂ・モライス

詩人、作詞家、外交官として知られ、ジョビンと共に数多くのボサノバの傑作を生み出しました。彼の詩的な歌詞が、ボサノバの洗練された世界観を構築しました。

アストラッド・ジルベルト

ジョアン・ジルベルトの元妻で、英語で歌った「イパネマの娘」のヒットにより、ボサノバを世界的なブームへと押し上げました。

ボサノバは、その都会的で洗練されたサウンドと、ジャズとの親和性の高さから、瞬く間に世界中で人気を博し、多くのジャズミュージシャンにも影響を与えました。

サンバとボサノバの違い:情熱と知性の比較

サンバ ボサノバ 違い」は、ブラジル音楽を理解する上で避けて通れないテーマです。両者はブラジルを代表する音楽ですが、その特徴には明確な違いがあります。

リズムとテンポ

サンバは、より速いテンポで、激しく、複雑な打楽器のリズムが特徴です。踊り手の動きもエネルギッシュで、カーニバルなどの大規模な祝祭で人々を熱狂させます。一方、ボサノバは、よりゆったりとしたテンポで、抑制されたリズムが特徴です。ジョアン・ジルベルトのギター奏法に代表されるように、サンバのリズム要素を内包しつつも、より洗練されたミニマルな響きを追求します。

歌詞と雰囲気

サンバは、社会問題、日常生活の苦労、地域のコミュニティの描写など、よりストレートで感情的な歌詞が多いです。大衆的で、熱狂的、祝祭的な雰囲気を持ちます。一方、ボサノバは、内省的で詩的な歌詞が多く、愛、自然、都会の風景などを繊細に描写します。洗練された、クールで、時に物憂げな雰囲気を持ち、ジャズクラブやカフェで静かに聴かれることが多いです。

楽器編成

サンバは、パンデイロ、スルド(大太鼓)、タンボリン、アゴゴなどの打楽器が中心となり、カヴァキーニョやギターが加わります。大規模なサンバ・エンヘードでは、ブラスセクションや弦楽器も加わります。一方、ボサノバは、アコースティックギター、ボーカルが中心で、必要に応じてピアノ、ベース、ドラム(ブラシ奏法が多い)、フルートなどが加わります。シンプルな編成で、各楽器の音色が際立ちます。

要するに、サンバは「情熱と祝祭のブラジル」を象徴する音楽であり、ボサノバは「知性と洗練のブラジル」を象徴する音楽と言えるでしょう。

MPBとその他の多様なブラジル音楽ジャンル

ブラジル音楽の魅力は、サンバとボサノバだけにとどまりません。MPBをはじめ、他にも多くの魅力的なジャンルが存在します。

MPB(ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)

MPB(Música Popular Brasileira:ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)は、1960年代半ば以降に登場した、ブラジルのポピュラー音楽全般を指す広範なジャンルです。ボサノバの洗練された要素と、サンバの伝統的なリズム、そしてロック、ジャズ、フォーク、サイケデリック音楽など、様々なジャンルが融合して生まれました。

MPBは、単なる音楽ジャンルに留まらず、社会的なメッセージや政治的な意味合いを持つことも多く、軍事政権下においては表現の自由を求める運動とも結びつきました。その特徴は、高度な音楽性と歌詞の文学性、そしてジャンルにとらわれない多様な音楽性にあります。

MPBの代表アーティスト

  • カエターノ・ヴェローゾは、トロピカリア運動の中心人物の一人です。詩的で知的な歌詞と、多様な音楽スタイルを融合させた作風が特徴です。

  • ジルベルト・ジルは、カエターノと共にトロピカリアを牽引しました。アフリカ系ブラジル音楽の要素を深く取り入れ、社会的なメッセージを込めた楽曲を多く発表しました。

  • シコ・ブアルキは、文学的で深みのある歌詞と、社会批評的な視点が特徴のシンガーソングライターです。

  • エリス・レジーナは、パワフルな歌声と圧倒的な表現力で知られる女性歌手です。数多くのMPBの名曲を歌い上げました。

  • ミルトン・ナシメントは、ミナス・ジェライス州出身です。独自の世界観と美しいメロディ、そして独特のファルセット歌唱が特徴です。

MPBは、ブラジル音楽の豊かな土壌から生まれた、まさに「文化のるつぼ」を象徴するジャンルと言えるでしょう。

その他の主要なブラジル音楽ジャンル

ブラジルには、他にも多様な地方色豊かな音楽ジャンルが存在します。

ショーロ

19世紀後半にリオデジャネイロで生まれた、ブラジル最古のインストゥルメンタル音楽ジャンルの一つです。「泣く」「嘆く」という意味を持つが、音楽自体は軽快でテクニカルな演奏が特徴です。クラリネット、フルート、カヴァキーニョ、ギターなどで演奏されます。

フレヴォ

ブラジル北東部のペルナンブーコ州、特にレシフェのカーニバルで踊られる、非常に速いテンポのダンス音楽です。ブラスバンドが中心で、アクロバティックな動きを伴うダンスが特徴です。

フォホー

ブラジル北東部の内陸部が起源の、庶民的なダンス音楽です。アコーディオン(サンフォーナ)、トライアングル、ザブンバ(ドラム)が主要楽器です。カップルで踊られることが多く、陽気で親しみやすいリズムが特徴です。

アシェー

バイーア州が発祥の、アフリカ系の要素を強く持つポピュラー音楽です。1980年代に流行し、カーニバルを盛り上げる音楽として人気が高いです。

カポエイラ音楽

ブラジルの武術とダンスが融合したカポエイラに伴う音楽です。ビリンバウ(弓型の弦楽器)が中心で、歌とリズムが一体となってカポエイラの動きを導きます。

これらのジャンルは、ブラジルという国の多様な地域性、民族性、そして歴史を映し出しています。

まとめ:ブラジル音楽は終わりのない旅

サンバの熱狂的なリズム、ボサノバの洗練されたハーモニー、MPBの多様な表現、そしてショーロやフォホーといった地方色豊かなジャンル。ブラジル音楽は、アフリカ、ポルトガル、そして先住民の文化が複雑に融合し、独自の発展を遂げてきた、まさに文化のるつぼを象徴する芸術です。

サンバとボサノバの違いは、ブラジル音楽の二つの主要な顔を示していますが、それらは互いに影響し合い、MPBという大きな流れの中でさらに多様な進化を遂げてきました。カーニバルで人々を熱狂させるブラジル リズムから、静かに内省を促すボサノバの響きまで、ブラジル音楽は、聴く者、踊る者の心を揺さぶり、感情の奥深くに触れる力を持っています。

ブラジル音楽ジャンルの探求は、まるで終わりのない旅のようです。それぞれのジャンルが持つ歴史的背景や文化的意義を知ることで、私たちはブラジルの人々が紡いできた物語と魂の響きをより深く理解することができるでしょう。さあ、あなたもこの情熱のリズムと知的な響きの世界に足を踏み入れてみませんか?

参考文献

  • McGowan, C., & Pessanha, R. (1998). The Brazilian Sound: Samba, Bossa Nova, and the Popular Music of Brazil. Temple University Press. (ブラジル音楽に関する包括的な入門書)
  • Castro, R. (2000). Bossa Nova: The Story of the Brazilian Music That Seduced the World. A Capella Books. (ボサノバ誕生の経緯と影響を詳細に記述)
  • Crook, L. (2005). Brazilian Music: Northeastern Traditions and the Global Sound. University of Illinois Press. (北東部の音楽に焦点を当てた研究)
  • Essinger, S. (2004). Alegria de Bossa Nova: A História por Trás dos Mitos. Editora Record. (ボサノバの歴史と背景に関するポルトガル語の書籍)
  • Reily, S. (2001). Música Popular Brasileira (MPB). In The Garland Encyclopedia of World Music: Vol. 2, South America, Mexico, Central America, and the Caribbean. Routledge. (MPBの概念と発展に関する解説)
  • Fryer, P., & Pinheiro, O. (2000). Samba: Dance, Culture, Power. Ohio University Press. (サンバの歴史、文化、政治的側面に関する研究)
  • Nascimento, M., & Blake, A. (1998). Clube da Esquina. PolyGram. (ミルトン・ナシメントの代表作、MPBの象徴的なアルバム)
  • UNESCO. Samba de Roda do Recôncavo da Bahia. (ユネスコの無形文化遺産としてのサンバ・ヂ・ホーダに関する情報)
この記事を書いた人
@RAIN

音高・音大卒業後、新卒で芸能マネージャーになり、25歳からはフリーランスで芸能・音楽の裏方をしています。音楽業界で経験したことなどをこっそり書いています。そのほか興味があることを調べてまとめたりしています。
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