【イギリスの作曲家まとめ】エルガーやホルストなど(クラシック音楽史)

作曲家解説
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はじめに

クラシック音楽の世界において、イギリスはドイツやイタリアに比べると、その歴史が語られる機会は少ないかもしれません。しかし、この霧に包まれた島国は、独自の美意識と感性に基づいた、静謐で荘厳な音楽文化を育んできました。

バロック時代に栄華を誇った後、長い停滞期を経て、再び音楽の光を放つに至る、知られざるイギリス音楽の歴史を紐解いていきます。

バロックの巨匠

イギリス・クラシック音楽史における最初の黄金時代は、17世紀後半のバロック時代に訪れました。この時代に登場したのが、イギリス音楽史上最高の作曲家と称されるヘンリー・パーセルです。

ヘンリー・パーセル

ヘンリー・パーセル(1659-1695)は、わずか36年という短い生涯の中で、イギリス音楽の基礎を築き上げました。彼の作品は、当時の大陸の音楽様式を取り入れつつも、イギリス独自の力強く簡潔な旋律と、独特のハーモニーが特徴です。代表作であるオペラ『ディドーとエネアス』は、悲劇的な物語を巧みな音楽で描き出し、特にヒロインが歌う「ディドーの嘆き」は、その深く悲しい旋律で今もなお聴く者の心を打ちます。

また、劇付随音楽『アーサー王』では、華やかな舞踏音楽や歌唱が盛り込まれ、聴衆を魅了しました。しかし、パーセルの早すぎる死後、イギリスからはしばらく彼の後を継ぐような偉大な作曲家は現れませんでした。

ヘンデルの活躍

パーセルの死後、イギリスの音楽界はドイツ出身のゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(1685-1759)によって席巻されました。彼はイギリスに帰化し、生涯の大半をロンドンで過ごしました。ヘンデルは、華やかで国際的なオペラやオラトリオで大成功を収め、特に『メサイア』の中の「ハレルヤ・コーラス」は、イギリス国民に広く愛されるようになりました。

しかし、ヘンデルの絶大な人気は、かえってイギリス人作曲家たちの活躍の場を奪い、結果的に約200年間にもわたる音楽的な停滞を招くことになったのです。

イギリス音楽ルネサンス

19世紀末、イギリスは産業革命を経て、経済的な繁栄を謳歌していました。その中で、再び自国の音楽を復興しようとする動き、いわゆる「イギリス音楽ルネサンス」が起こります。

ヒューバート・パリー

この運動の精神的支柱となったのが、作曲家であり教育者でもあったヒューバート・パリー(1848-1918)です。彼は、王立音楽大学の学長として多くの若手作曲家を育成し、イギリス音楽の父と呼ばれました。

彼の作品は、ドイツ・ロマン派の影響を受けつつも、イギリス独自の穏やかで力強い響きを持っています。代表作「エルサレム」は、ウィリアム・ブレイクの詩に曲をつけたもので、今もなおイギリスで愛国歌として歌い継がれています。

エドワード・エルガー

パリーの弟子ではないものの、イギリス音楽の復興を象徴する存在となったのが、エドワード・エルガー(1857-1934)です。彼の音楽は、気品と重厚さに満ちたロマン主義的なスタイルが特徴で、ドイツのブラームスと比較されることもありました。代表作である行進曲「威風堂々」は、イギリスの国民的な行事には欠かせない曲として知られています。

また、彼の名声を決定づけたのは「エニグマ変奏曲」です。この作品は、彼が友人や家族を音楽的に描写したもので、それぞれの変奏に隠された謎(エニグマ)が聴く者の想像力を掻き立てます。エルガーは、イギリスが誇る最初の国際的な作曲家となりました。

民謡への回帰と民族主義

20世紀に入ると、イギリスの作曲家たちは、自国の民謡や風景にインスピレーションを求めるようになります。これは、ヴォーン・ウィリアムズを中心に、イギリス独自の民族的な音楽を再構築しようとする動きでした。

レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ

レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ(1872-1958)は、イギリスの民謡を熱心に収集し、自身の作品にその旋律や雰囲気を織り込みました。彼の音楽は、イギリスの田園風景を思わせる牧歌的で神秘的な雰囲気に満ちています。代表作である『あげひばり』は、ヴァイオリンが奏でる美しい旋律で、大空に舞い上がるひばりの姿を見事に描き出しています。

また、交響曲でも、イギリスの風景や精神性を表現しました。彼の音楽は、民族主義的な要素を普遍的な表現へと昇華させたものと言えるでしょう。

グスターヴ・ホルスト

ヴォーン・ウィリアムズの親友であったグスターヴ・ホルスト(1874-1934)は、インド哲学や占星術に強い関心を持ち、独自の音楽世界を築きました。彼の最も有名な作品は、管弦楽組曲『惑星』です。

この作品は、太陽系の各惑星にまつわる神秘主義的な思想を壮大なオーケストラの響きで表現したもので、特に「木星」の美しい旋律は、合唱曲「I Vow to Thee, My Country」としても愛されています。ホルストの音楽は、イギリス音楽に新たな神秘的な側面をもたらしました。

フレデリック・ディーリアス

フレデリック・ディーリアス(1862-1934)は、フランスやアメリカでも活動したコスモポリタンな作曲家です。彼の音楽は、自然の美しさや光の移ろいを描いた、繊細で夢幻的な響きが特徴です。明確な形式よりも、響きの美しさや情感を重視した彼の作風は、フランス印象主義の影響も受けています。

代表作『春、初めてカッコウを聞いて』は、春の訪れを告げるカッコウの鳴き声を、美しい管弦楽のハーモニーで描いています。

20世紀後半(近現代)

20世紀後半になると、イギリス音楽はさらに多様な発展を遂げます。第二次世界大戦という大きな出来事を経て、作曲家たちは社会的なテーマや新たな音楽語法を追求するようになります。

ベンジャミン・ブリテン

ベンジャミン・ブリテン(1913-1976)は、オペラや声楽曲の分野で国際的な名声を得た、イギリスを代表する作曲家です。彼は平和主義者として、戦争や社会的な不条理をテーマにした作品を数多く残しました。

代表作であるオペラ『ピーター・グライムズ』は、社会から疎外された漁師の悲劇を描いたもので、現代オペラの傑作として高く評価されています。ブリテンの音楽は、簡潔でありながらも深い人間性を描いています。

ウィリアム・ウォルトン

ウィリアム・ウォルトン(1902-1983)は、エルガーの系譜を受け継ぎ、力強くドラマティックな音楽を追求しました。彼の代表作である交響曲第1番や映画音楽『ヘンリー五世』は、その荘厳な響きとエネルギーに満ちています。ウォルトンは、映画や儀式音楽でも活躍し、イギリス音楽の幅広い可能性を示しました。

マイケル・ティペット

ブリテンと並び、イギリスの20世紀後半を代表する作曲家がマイケル・ティペット(1905-1998)です。彼は平和主義者であり、その思想は作品に色濃く反映されています。代表作であるオラトリオ『われらの時代の子』は、人種差別や平和へのメッセージを込めたもので、複雑なリズムと、ルネサンス音楽の様式を取り入れた独創的な音楽語法が特徴です。

まとめ

ヘンリー・パーセルの華やかな時代から、ヘンデルによる停滞期、そしてエルガーやヴォーン・ウィリアムズによる「音楽ルネサンス」を経て、現代へと続くイギリス音楽の歴史は、決して平坦なものではありませんでした。

しかし、その過程で育まれた、抑制された感情表現、神秘的な雰囲気、そして自然や伝統への深い敬愛は、イギリスの作曲家たちに共通する精神性です。霧の島が育んだ静謐で荘厳な響きは、大陸の音楽とは一線を画す、独自の魅力で私たちを魅了し続けています。

この記事を書いた人
@RAIN

音高・音大卒業後、新卒で芸能マネージャーになり、25歳からはフリーランスで芸能・音楽の裏方をしています。音楽業界で経験したことなどをこっそり書いています。そのほか興味があることを調べてまとめたりしています。
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