【ビオラはいつから存在する?】歴史と楽器の特徴を解説。

楽器解説
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はじめに

ヴァイオリンの華やかな高音と、チェロの包み込むような低音。その中間で、ヴィオラはしばしば目立たない「縁の下の力持ち」と見なされてきました。しかし、この楽器の音色には、どこか物憂げで、人間の声に最も近いと言われる独特の深みと温かさがあります。それは、楽器としてのアイデンティティを確立するために、孤独な歴史を歩んできたヴィオラの魂の叫びなのかもしれません。

この記事では、ヴァイオリン族の中で最も歴史が古く、それでいて最も遅れて独自の地位を確立したヴィオラの物語を紐解きます。そのサイズ、役割、そして音色が、なぜ時代と共に変化してきたのか。天才たちの情熱と、名もなき職人たちの努力が織りなす、ヴィオラが歩んだ不屈の歴史を辿りましょう。

楽器の誕生

ヴィオラは、ヴァイオリンよりも歴史が古い擦弦楽器「ヴィオラ・ダ・ガンバ」の流れを汲み、ヴァイオリン族の中で最初に現在の形に近づいた楽器の一つです。16世紀半ば、イタリアのクレモナでヴァイオリンの原型が誕生したのとほぼ同時期に、より大きなサイズの「ヴィオラ」が作られました。

ヴィオラ・ダ・ガンバとの違い

ヴィオラ・ダ・ガンバは、フレットと呼ばれる弦を押さえるための溝があり、チェロのように脚で挟んで演奏する楽器でした。これに対し、ヴィオラはフレットがなく、肩に乗せて演奏する、現代の弦楽器に通じる特徴を持っていました。この違いは、弦楽器が貴族のサロンでの私的な演奏から、広い教会や劇場での集団演奏へと役割を広げていった時代の変化を反映しています。

楽器のサイズ問題

ヴァイオリンは当初からほぼ統一されたサイズで製作されましたが、ヴィオラはそうではありませんでした。テノール声部やアルト声部を担うために、楽器のサイズは様々で、音色や響きもまちまちでした。

製作家たちは、音量を大きくするためにサイズを大きくしたり、演奏性を良くするために小さくしたりと、試行錯誤を繰り返しました。この標準化されていないサイズの問題は、後世までヴィオラの発展を妨げる要因の一つとなります。

役割の確立

18世紀に入ると、音楽の中心は宮廷から公的な場へと移り、楽器の編成も大規模になっていきます。この時代に登場したのが、ハイドンによって確立された「弦楽四重奏」です。

ハイドンとヴィオラ

「弦楽四重奏の父」と呼ばれるハイドンは、第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロという編成を確立しました。この編成において、ヴィオラは内声部を担い、和音を支える役割を担いました。主旋律を奏でるヴァイオリンや、低音を支えるチェロに比べると目立たない存在でしたが、ヴィオラが和声の要となることで、音楽に厚みと深みが生まれました。ハイドンはヴィオラに重要な役割を与え、その存在感を高めました。

モーツァルトのヴィオラ愛

モーツァルトはヴィオラの音色をこよなく愛した作曲家であり、自身もヴィオラの名手でした。彼は弦楽四重奏を演奏する際、自らヴィオラを弾くことを好みました。モーツァルトの作品では、ヴィオラが単なる伴奏楽器ではなく、ヴァイオリンと対等に旋律を歌う場面が数多く見られます。特に、彼の弦楽五重奏曲(ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ1)では、ヴィオラが2本に増えたことで、その豊かな響きが存分に活かされています。

ロマン派の台頭

19世紀のロマン派の時代に入ると、ヴァイオリンはパガニーニのような超絶技巧の演奏家によって、独奏楽器としての地位を確立しました。これに対し、ヴィオラはヴァイオリンほどの華やかさがないため、依然として地味な楽器と見なされることが少なくありませんでした。しかし、この時代の作曲家の中には、ヴィオラの深く豊かな音色に特別な魅力を感じ、その可能性を探求する者たちがいました。

ベルリオーズと『イタリアのハロルド』

フランスの作曲家エクトル・ベルリオーズは、ヴィオラを主役にした交響曲『イタリアのハロルド』を作曲しました。これは、ベートーヴェンの『田園』交響曲に感銘を受けたベルリオーズが、ヴィオラをソリストとして迎え入れた画期的な作品です。この作品で、ヴィオラは孤独な旅人ハロルドのテーマを繰り返し奏で、その憂愁と深みが最大限に引き出されました。しかし、この作品は当時のヴィオラ奏者にはあまりにも難解で、ベルリオーズ自身がヴィオラを演奏しながら初演に臨んだという逸話も残っています。

ブラームスと室内楽

ドイツの作曲家ヨハネス・ブラームスは、ヴィオラの温かく、少し憂鬱な音色をこよなく愛しました。彼は多くの室内楽作品でヴィオラに重要な役割を与え、特に晩年に作曲した2つのクラリネット・ヴィオラ三重奏曲は、ヴィオラの魅力を余すことなく引き出しています。ブラームスの作品は、ヴィオラが持つ内省的で深い表現力を再認識させるきっかけとなりました。

20世紀の再評価

20世紀に入ると、ヴィオラは独奏楽器としての地位を本格的に確立します。それまでの目立たない役割から解放され、ヴィオラの持つ独特な音色と表現力が、新たな音楽的探求の対象となったのです。

新しい音色の探求

ヒンデミットの活躍 ドイツの作曲家パウル・ヒンデミットは、ヴィオラの演奏家としても知られていました。彼はヴィオラのために多くの独奏曲や協奏曲を作曲し、この楽器の可能性を大きく広げました。ヒンデミットの作品は、ヴィオラの持つ力強さと抒情性を両立させ、現代のヴィオラ音楽の発展に不可欠なものとなりました。彼はヴィオラの音色に新たな命を吹き込み、多くの作曲家がヴィオラのために曲を書くきっかけを作りました。

バルトークのヴィオラ協奏曲 ハンガリーの作曲家バルトークは、晩年にヴィオラ協奏曲を作曲しました。この作品は、ヴィオラの持つ暗くも力強い響きを最大限に活かし、現代ヴィオラ協奏曲の傑作として知られています。この作品は、バルトークの生涯の集大成とも言えるものであり、ヴィオラの真価を世に知らしめました。

現代のヴィオラ

20世紀後半から現代にかけて、ヴィオラはますますその存在感を増しています。教育機関やオーケストラで、ヴィオラは重要な楽器として認識され、その演奏技術も飛躍的に向上しました。

現代のヴィオラ

演奏技術の向上 現代のヴィオラ奏者たちは、過去の巨匠たちの作品を演奏するだけでなく、現代の多様な音楽ジャンルにも挑戦しています。ジャズやポップス、映画音楽など、様々な分野でヴィオラの深い音色が活かされています。

現代のヴィオラ音楽 現代の作曲家たちも、ヴィオラのために多くの独奏曲や協奏曲を書いています。彼らは、ヴィオラの持つ独特な響きや、ヴァイオリンとチェロの中間に位置するユニークな音域を活かし、これまでにない新しい音楽表現を追求しています。

まとめ

ヴィオラの歴史は、地味で目立たない存在と見なされながらも、その深い音色と表現力を愛した人々の情熱によって、真価を発揮してきた物語です。ヴァイオリンやチェロのような華やかなスポットライトを浴びることは少なかったかもしれませんが、ヴィオラは常に音楽の和声の要として、そして人間の内面を深く描くための楽器として、重要な役割を担ってきました。その温かく、少し物憂げな音色に耳を傾けるとき、私たちはヴィオラが歩んできた、静かで力強い歴史を感じ取ることができるのです。

この記事を書いた人
@RAIN

音高・音大卒業後、新卒で芸能マネージャーになり、25歳からはフリーランスで芸能・音楽の裏方をしています。音楽業界で経験したことなどをこっそり書いています。そのほか興味があることを調べてまとめたりしています。
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