【著作権保護期間の延長】2040年問題が文化とビジネスに与える影響。

エンタメ業界
記事内に広告が含まれています。

はじめに

著作権制度が直面する大きな転換点

日本のエンターテイメント業界と文化活動の根幹を支える著作権制度が、今、大きな転換点にあります。

それは、国際的な協定に基づき実行された著作権保護期間の延長です。これまでの原則「著作者の死後50年間」から「死後70年間」への変更は、一見すると日本のコンテンツを国際的に保護するための措置のように見えますが、その影響は非常に広範囲に及びます。

特に、この延長の真のインパクトが顕在化するとされるのが「2040年問題」です。この問題は、単なる法制度の変更ではなく、日本の文化的な資産の利用と、新しい創造活動の機会を巡る、構造的な課題を内包しています。

記事の目的と対象範囲

本記事では、この著作権保護期間延長がなぜ「問題」として認識されているのかを深掘りします。具体的には、保護期間延長の国際的な背景を解説した上で、文化的な二次利用の停滞、デジタルアーカイブ化のコスト増大、そしてビジネスにおける権利処理の複雑化という、主要な論点について詳しく分析します。

この制度変更が、クリエイティブ産業や文化的な資産の流通にどのような影響を与え、将来的にどのような対策が求められるのかを明らかにすることを目的とします。特に、映画や音楽といったエンタメ分野のビジネス構造に与える長期的な影響に焦点を当てて解説します。

著作権保護期間延長の経緯

国際的な流れと法改正の背景

日本の著作権法は、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定などの国際的な経済連携の枠組みへの対応の一環として、大きな改正を迎えました。この改正における最も注目すべき変更の一つが、著作権の保護期間の延長です。

これまでの日本の著作権保護期間は、「著作者の死後50年間」が原則でしたが、2018年12月30日の改正著作権法施行により、原則として「著作者の死後70年間」へと延長されました。

この変更は、すでにアメリカや欧州連合(EU)の多くの国が採用している国際的な基準に合わせたものであり、日本のコンテンツ産業が海外でビジネスを展開しやすくするための基盤整備という、経済的な側面が強く推進されました。国際市場でのライセンス収入を長期的に確保するという目的があったのです。

2040年問題の具体的な意味と影響

この保護期間の延長が本格的な問題として議論されるのが「2040年問題」です。これは、戦前や戦後まもなくに制作された多くの作品群、特に著作者の没年が比較的古い作品群の著作権が、本来であれば2020年代から2030年代にかけて順次「死後50年」を迎え、パブリックドメイン(著作権が消滅し、誰もが自由に利用できる公共の財産)になるはずだったものが、延長によってその時期がさらに20年間も後ろ倒しになることを指します。

この影響は、戦後の復興期から高度成長期にかけて生まれた日本の多くの文化的な財産、特に古い音楽音源や映画フィルム、文学作品などに広範囲に及び、文化の自由な利用を制限することになります。この延長は、デジタル時代における文化的な知識の共有を遅らせるという批判もあります。

文化活動と創造性への影響

パブリックドメイン化の停滞と創造性の萎縮

パブリックドメイン化は、文化的な作品が社会の共有財産となり、それを基に新しい創造活動が行われる上で極めて重要なステップです。著作権が消滅した作品は、利用許諾や著作権料の支払いが不要になるため、それを素材とした二次創作や、デジタルアーカイブ化、あるいはリマスターやアレンジといった再利用が容易になります。

しかし、保護期間が20年延長されたことで、これらの活動が大規模に停滞することになります。特に、古い音源や映像をデジタル技術で修復し、現代的な解釈を加えて公開するプロジェクトや、教育分野での利用などが、引き続き権利処理の複雑さと費用の問題に直面することになり、結果として文化的な創造性が萎縮することが懸念されています。

著作権継承者の特定困難による利用の障壁

著作権保護期間が長期化することは、単に利用料を支払い続けるという問題に留まりません。著作者の死後70年という非常に長い期間が経過する間に、著作権を継承した人物や団体が複数に分かれたり、あるいは所在が不明になったりするケースが加速度的に増加します。

特に、戦後まもなくの時代の作品などでは、権利関係の書類が十分に整備されていないことも多く、作品を利用したい側が誰に許諾を求めれば良いのかを特定することが極めて困難になります。この「権利者不明」の問題が、作品の円滑な利用や、文化的な流通を妨げる大きな障害となり、結果として多くの作品が「死蔵」されてしまうリスクを高めています。

ビジネスとアーカイブ分野の課題

利用コストの継続的な発生と事業圧迫

エンタメビジネスの観点から見ると、2040年問題は、コンテンツ利用に関するコストの継続的な発生を意味します。例えば、映画やドラマ、ドキュメンタリーの制作において、背景音楽や劇中の小道具として古い作品を利用したい場合、本来であれば著作権が消滅しているはずの作品についても、引き続き20年間、権利者を探し出し、利用料を支払い続ける必要が生じます。

この利用コストは、特に予算が限られるインディーズ映画や小規模なウェブコンテンツ、教育コンテンツなどの制作予算を圧迫する要因となります。これにより、予算規模の小さいクリエイターが、歴史的な音源や映像を使うことが難しくなり、コンテンツの多様性が失われる可能性があります。

デジタルアーカイブの停滞と文化遺産の損失

博物館、図書館、大学などの文化的なアーカイブ機関にとっても、この問題は深刻です。彼らは、国の文化財として重要な古い音源や映像、文献などを収集・保存し、研究や一般公開のためにデジタル化を進めていますが、著作権が切れていない作品については、デジタル化自体が複製権に抵触する可能性があります。

著作権の保護期間が延長されたことで、デジタルアーカイブ化を進める際の権利処理の負担と費用が大幅に増加し、結果として貴重な文化遺産のデジタルでの保存と公開が遅れることになります。これは、将来世代がこれらの資料にアクセスすることを困難にするという、取り返しのつかない文化的な損失につながる可能性があります。

また、素材の劣化が進む前にデジタル保存を進める必要があるという時間的な制約も加わり、アーカイブ機関の負担は増大しています。

権利管理の複雑化と集中管理の限界

保護期間の延長は、著作権管理を行う団体、例えば音楽著作権管理団体(JASRACなど)の業務の複雑化も招きます。管理期間が伸びれば、それだけ権利者の管理や分配の事務作業が増大します。

また、権利が細分化・複雑化し、権利者不明の作品が増える中で、集中管理団体がすべてをカバーしきれないケースが増加し、個別の権利処理がますます難しくなるという課題が顕在化しています。国際的な利用が増える中で、海外の権利者との連携も複雑化し、管理コストが収益を圧迫する可能性も指摘されています。

対策と今後の業界の動き

利用円滑化のための制度構築と課題

著作権延長による弊害を緩和するため、文化庁や関連団体では、著作物の利用円滑化に向けた様々な制度を検討・導入しています。例えば、「著作権等管理事業法」に基づき、権利者の所在が不明な著作物について、文化庁長官の裁定を得て補償金を供託することで、利用が可能になる裁定制度の利用促進が図られています。

しかし、この裁定制度も手続きが煩雑であり、また、供託する補償金の額が利用に見合わない場合もあり、万能な解決策にはなっていません。より迅速かつ低コストで利用できるような、実効性の高い仕組みの構築が求められています。

デジタル時代に合わせた制度の見直しとバランス

音楽や映画のビジネスがデジタル配信へと移行する中で、著作権制度自体もデジタル時代に合わせた見直しが求められています。著作権を保護する期間の長さだけでなく、利用許諾のプロセスをオンライン化・簡素化すること、そして権利者が不明な作品に対するより実効性のある法的な対応策を講じることが急務です。

業界全体としては、著作権という「財産」を守る(権利者への適切な還元)という目的と、それを活用し、新しいコンテンツを生み出す「創造」を阻害しないという目的との、バランスの取れた制度設計が求められています。著作権法と技術革新との間で、いかに文化的な流通をスムーズにするかが今後の大きな論点となります。

まとめ

2040年問題が突きつける究極の課題

著作権保護期間の延長は、国際的なビジネス要請に応えるための不可避な措置であったとはいえ、「2040年問題」として、文化的な財産の自由な利用と新たな創造活動の機会を奪うリスクを突きつけています。この問題の究極の課題は、「保護」と「利用」のどちらを優先するかという点に集約されます。

保護期間が長くなることで、過去の作品がパブリックドメイン化することを待って利用しようとする層にとっては、大きな障壁となり、結果として文化的な二次創作の機運が失われかねません。

業界全体に求められる柔軟な対応と解決策

この問題に対処するためには、単に法制度に依存するだけでなく、権利を持つ企業や団体が、裁定制度以外の柔軟な利用許諾の仕組みを自主的に整備していくことが重要です。低予算のクリエイターやアーカイブ機関に対しては、利用料を低く設定したり、簡便な手続きで利用を許可したりするなど、文化的な利用を促進するための積極的な取り組みが求められます。

また、権利者不明問題の解決に向けた業界全体でのデータベース整備も必要です。2040年以降も、日本の文化が過去の遺産の上に立って豊かに発展していくためには、業界全体がこの課題を共有し、創造的な未来を妨げないための実効性のある解決策を模索し続ける必要があります。

この記事を書いた人
@RAIN

音高・音大卒業後、新卒で芸能マネージャーになり、25歳からはフリーランスで芸能・音楽の裏方をしています。音楽業界で経験したことなどをこっそり書いています。そのほか興味があることを調べてまとめたりしています。
>>read more

\  FOLLOW  /
エンタメ業界ビジネス
スポンサーリンク
\  SHARE  /
\  FOLLOW  /
@RAIN
タイトルとURLをコピーしました